飲食店の原価率を下げる5つの方法
― 値上げに頼らない原価改善の実務
原価率が上がったとき、多くの店がまず「値上げ」か「食材のグレードを落とす」を検討します。しかしこの2つは、客数の減少や満足度の低下という副作用を伴います。実は、お客様に見える部分を一切変えずに原価を下げられる余地は、まだかなり残っていることが多いのです。
そもそも「原価率」だけを見ていないか
最初に、考え方の前提を1つ確認させてください。原価率は下がったのに、店に残るお金が増えていない。これは実際によくあることです。
原価率30%のメニューを1,000円で売れば、粗利は700円。原価率40%のメニューを2,000円で売れば、粗利は1,200円です。率が悪いほうが、店に残る金額は大きいわけです。
原価率は健康診断の数値のようなもので、見るべき指標ではありますが、それ自体が目的ではありません。最終的に見るべきは「粗利額」です。この前提を持っているかどうかで、打つべき手はまったく変わります。
方法1:仕入れ価格そのものを見直す
最も即効性があり、かつ最も手つかずになっているのがここです。多くの店で、仕入れ価格は「最初に取引を始めたときの条件」のまま何年も動いていません。その間に取扱量は増え、業者側の仕入れ環境も変わっているにもかかわらず、です。
- 現在の単価は、いつ決まったものか。3年以上前のままなら、まず見直しの余地があります
- 同じ食材を、他の業者はいくらで出せるか。相見積もりを取るだけで基準値が分かります
- 月間・年間の取扱量を業者に伝えているか。年間数量が明確になると、条件は動きやすくなります
交渉の具体的な進め方は、食材の仕入れ価格交渉のやり方で詳しく解説しています。
方法2:食材の「規格」を見直す
品質を落とさずに原価を下げる、最も実務的な方法がこれです。たとえば、店内でカットしている野菜。カット済みの状態で仕入れると単価は上がりますが、仕込み時間は減ります。逆に、カット済みで仕入れているものを原体(丸のまま)に変えれば、単価は下がります。
重要なのは、単価だけで判断しないことです。判断材料は次の3つの合計です。
- 食材そのものの単価
- 仕込みにかかる人件費(時間 × 時給)
- 歩留まり(廃棄する部分がどれだけあるか)
肉のブロックとスライス、魚の丸物とフィレ、冷凍と冷蔵。どちらが得かは、店の人員体制と客数によって変わります。人手が足りない店で原体に戻すと、かえって残業代で高くつくこともあります。
方法3:メニュー構成を組み替える
1品ごとの原価を下げるのではなく、「何が売れるか」を変えることで全体の原価率を動かすアプローチです。まず、全メニューを次の4分類に分けてみてください。
| よく出る × 粗利が大きい | 店の主力。品切れを起こさない。目立つ位置に置く |
|---|---|
| よく出る × 粗利が小さい | 原価の見直し、または価格の再設定を検討する対象 |
| あまり出ない × 粗利が大きい | 推し方次第で伸びる。おすすめ表示や声かけで動かす |
| あまり出ない × 粗利が小さい | 整理の候補。食材の種類も減り、廃棄も減る |
この整理をするだけで、「なんとなく残していたメニュー」が可視化されます。品目が減れば食材の種類が減り、発注も仕込みも廃棄も同時に軽くなります。
方法4:廃棄とロスを数字で捉える
原価率の悪化要因のうち、仕入れ価格ではなく「使い切れていない」ことが原因のケースは少なくありません。見るべきは次の3つです。
- 仕込みロス:仕込んだが提供に至らず捨てた分
- 歩留まりロス:カット時に落とす部分。想定より多くないか
- 過剰在庫:まとめ買いで単価は下げたが、使い切れずに廃棄していないか
特に3つ目は要注意です。単価を下げるためのまとめ買いが、廃棄を生んで結果的に高くついている。これは現場でよく見かける構図です。
方法5:価格を「下げない」設計をする
原価が上がったとき、値上げは選択肢の1つです。ただし、単純に価格を上げると客数に響きます。そこで実務でよく使うのが、価格を変えずに「構成」を変える方法です。
- メインの量は変えず、付け合わせの構成を見直す
- 単品売りから、粗利の取れるセット販売へ誘導する
- ドリンクやサイドなど、粗利率の高い商品との組み合わせを設計する
お客様が感じる価値を下げずに、店に残る金額を増やす。ここがメニュー開発の腕の見せどころです。
まとめ:どこから手をつけるべきか
- すぐ効果が出るのは、方法1(仕入れ価格の見直し)。交渉が実れば翌月から効きます
- 効果が大きいのは、方法3(メニュー構成)。ただし時間はかかります
- 見落とされがちなのが、方法4(ロス)。まず現状を数字で把握するところからです
店舗数が増えるほど、これらは現場だけでは回らなくなります。日々の営業に追われて、仕入れ条件の見直しまで手が回らない。これは能力の問題ではなく、単純に時間の問題です。